水理計算の基礎知識-6章
「同時使用率」から同時使用水量を算出する
「同時使用率」から同時使用水量を算出する
章題は「同時使用率」から同時使用水量を算出する、と略していますが略さずに言うと、同時使用率を考慮して末端給水用具の使用数を定め、その使用する末端給水用具の使用水量を同時使用水量とする算出方法です。
言葉だけですと少しややこしく感じるかもしれませんので、順を追って説明していきます。
なお説明の都合上、今後この方法による同時使用水量の算出方法を、「同時使用率」から算出する方法、というように表記します。
給水栓は通常その全てを使用することはありません。
仮に全ての給水栓を同時に使用することを前提として水理計算を行うと、より大きな管径が必要となり過大な設備投資となるだけでなく、停滞水が生じて残留塩素の濃度が低下する可能性があり、衛生上も好ましくありません。
そこで、末端給水用具の総数に対して、同時使用率を考慮して同時に使用する末端給水用具数を決めます。
この決定に用いられるのが、「同時使用率を考慮した末端給水用具数」(資料1)です。
(資料1)同時使用率を考慮した末端給水用具数
総末端給水用具数 | 同時に使用する末端給水用具数 |
---|---|
1 | 1 |
2~4 | 2 |
5~10 | 3 |
11~15 | 4 |
16~20 | 5 |
21~30 | 6 |
この表により、例えば末端給水用具の総数が8栓であれば同時に使用する末端給水用具の数は3栓、末端給水用具の総数が17栓であれば同時に使用する末端給水用具の数は5栓となります。
このようにして同時に使用する末端給水用具の数が決まったら、次にどの末端給水用具を使用するのかを任意に決定します。
任意ですので、どの末端給水用具を選んでも良いのですが、通常はより実態に合わせた計算が出来るように、使用頻度の高いものを考慮して決定します。
例えば一般家庭であれば、同時に使用する末端給水用具の数が3栓ならば、台所流し、洗面器、洗濯流しを、同時に使用する末端給水用具の数が4栓ならば、これに加えて大便器を同時に使用する水栓に設定するといった具合です。
もちろんこれ以外の組み合わせでも構いません。
以上のようにして同時に使用する末端給水用具の数と種類が決まったら、最後に、使用する末端給水用具の使用水量を求めます。
この決定に用いられるのが、「種類別吐水量と対応する末端給水用具の口径」(資料2)です。
(資料2)種類別吐水量と対応する末端給水用具の口径
用途 | 使用水量 (L/min) |
対応する末端給水用具の口径(mm) | 備考 | 使用水量 (L/sec) |
---|---|---|---|---|
台所流し | 12 ~ 40 | 13 ~ 20 | 0.2 ~ 0.67 | |
洗たく流し | 12 ~ 40 | 13 ~ 20 | 0.2 ~ 0.67 | |
洗面器 | 8 ~ 15 | 13 | 0.13 ~ 0.25 | |
浴槽(和式) | 20 ~ 40 | 13 ~ 20 | 0.33 ~ 0.67 | |
浴槽(洋式) | 30 ~ 60 | 20 ~ 25 | 0.5 ~ 1 | |
シャワー | 8 ~ 15 | 13 | 0.13 ~ 0.25 | |
小便器(洗浄水槽) | 12 ~ 20 | 13 | 0.2 ~ 0.33 | |
小便器(洗浄弁) | 15 ~ 30 | 13 | 1回(4~6秒)の吐水量2~3L | 0.25 ~ 0.5 |
大便器(洗浄水槽) | 12 ~ 20 | 13 | 0.2 ~ 0.33 | |
大便器(洗浄弁) | 70 ~ 130 | 25 | 1回(8~12秒)の吐水量13.5~16.5L | 1.17 ~ 2.17 |
手洗器 | 5 ~ 10 | 13 | 0.08 ~ 0.17 | |
消火栓(小型) | 130 ~ 260 | 40 ~ 50 | 2.17 ~ 4.33 | |
散水 | 15 ~ 40 | 13 ~ 20 | 0.25 ~ 0.67 | |
洗車 | 35 ~ 65 | 20 ~ 25 | 業務用 | 0.58 ~ 1.08 |
(資料2)の使用水量には幅がありますが、通常は最も小さい値を用いて問題ないでしょう。
使用水量の単位「L/min」は「L/分」のことです。
「L/sec」は「L/秒」のことです。
「min」は「minute(分)」の略、「sec」は「second(秒)」の略となります。
このように、
(1)同時使用末端給水用具数の算出
(2)使用する末端給水用具の選定
(3)使用する末端給水用具の使用水量の算出
の3つの手順により、「同時使用率」から同時使用水量を算出することができます。
それでは簡単な例を挙げて、実際に同時使用水量を算出してみます。(図6-1)
(図6-1)
■手順1
末端給水用具の総数が6栓なので、「同時使用率を考慮した末端給水用具数」から、同時に使用する末端給水用具は3栓となります。
(図6-2)
■手順2
同時に使用する末端給水用具を任意に選択します。(図6-2)
ここでは台所流し、洗たく流し、洗面器を同時に使用する水栓と設定しました。
(図6-3)
■手順3
使用する水栓それぞれの使用水量を「種類別吐水量と対応する末端給水用具の口径」より求めます。(図6-3)
ここでは台所流しは12L/min、洗たく流しは12L/min、洗面器は8L/minとしました。
■手順4
給水装置全体の同時使用水量を算出します。
同時使用水量は、同時に使用する末端給水用具の使用水量の和ですので、
12L/min + 12L/min + 8L/min = 32L/min
となります。
(図6-4)
■手順5
各区間の流量を算出します。(図6-4)
a~A間は台所流しの12L/min。
Aから別の水栓が分岐していますが、今回は同時使用する水栓に設定していないので、その水量は加算しません。ですから、
A~B間も12L/minとなります。
bの洗たく流しは同時使用する水栓ですので、その水量12L/minを加算して、
B~C間は24L/minとなります。
cの洗面器は同時使用する水栓ですので、その水量8L/minを加算して、
C~D間は32L/minとなります。
C~D間に水栓が2つありますが、今回は同時使用する水栓に設定していないので、先ほどと同様、その水量は加算しません。
区間の流量算出は以上です。
このようにして求めた各区間の流量に基づいて、所要水頭の計算を行っていくことになります。
(備考)
本章、「同時使用率」による同時使用水量の算出方法は、単独給水管(図6-5)のうちさほど規模の大きくない給水装置に適していると考えられます。
給水栓数の多い規模の大きな給水装置には、給水負荷単位を用いた算出方法の方が適しているでしょう。
(図6-5)
(参考)
学校や駅のトイレなど、同時使用率が極めて高くなると予測される場合の同時使用末端給水用具数の算出はその用途ごとに行います。(例6-1)
(例6-1)